咬合力(噛みしめる力)の測定方法はいろいろありますが、健全な第1大臼歯では約60〜100kgの噛みしめ力があると言われています。しかし残念なことに義歯になると、10〜30kgぐらいに低下します。
一方、食事をする時の力は咀嚼力と言い、食品の種類や調理法にもよりますが10〜20kgぐらいです。従って、義歯でも十分に食事出来るはずですが、実際はなかなか満足できないのが現状です。
“痛くて噛めない” “入れ歯が動いて安定しない” こんな不満をもった患者さんは沢山いらっしゃいます。何故、入れ歯は難しいのでしょうか? このような疑問に答えるために、入れ歯の話を少しいたします。
(結論1) 時間をかけてゆっくり、丁寧につくる
(結論2) 出来上がった義歯の調整に十分時間をかける。
結論を先に出しましたが、患者さんも歯科医師もあせらず、一歩一歩確実に進むことと、お互いの信頼関係と根気が必要です。簡単な説明ですが、参考にして下さい。
◎入れ歯の制作過程
| 1 | 診断 |
診断は、出発点です。方向を誤ると正しい目的地に着きません。
まず最初は、問診により患者さんの主訴を正しく把握します。つまり、目的地を確認することです。この時点で、インフォームド・コンセントが十分になされないと、後で思わぬ失敗を起こす可能性があります。
直接、手指で粘膜の厚みや弾力、骨の凹凸や形態などを触診します。また間接的には型を採り、診断用模型を制作します。もちろん、問診により今までの既往歴や性格を知ることも大切です。知り得る情報はすべて調べます。
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| 上 顎 | 下 顎 |
| 2 | 型を採る |
歯ぐきの型を採ることを、印象採得といい、また型を採る道具をトレーといいます。この既製のトレーは、サイズが数種類ありますので、最も適合するものを選んで型を採ります。
しかし、既製のトレーでは、細部にわたり適合しないこともあります。このような場合は、個人専用のトレーをつくり印象採得することもあります。
| 予備印象(上顎) | 予備印象(下顎) | 診査模型(上顎) | 診査模型(下顎) |
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作業用模型(上顎) |
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最終印象(下顎) | 作業用模型(下顎) |
従って、印象採得は1回で成功するとは限らず、2〜3回行うこともあります。採った型を使って歯ぐきの石膏模型をつくります。
この石膏模型上で入れ歯を製作していきます。
| 3 | 咬み合わせを決める |
咬み合わせを決めることを、咬合採得と言います。咬み合わせを決める基準はたくさんあります。専門的な解説は省略しますが、要点をまとめると、次のようになります。
1.顔貌が自然な状態に回復されている : 入れ歯の高さを決めます。低すぎる場合は、“しわ”が多くなり、老人性の顔貌になります。逆に高すぎると筋肉の疲労がおこります。
2.咬みやすい位置であること : 咬み合わせが低すぎると力が入らず、よく噛めません。。また、横にずれていると顎関節症になります。
3.前歯をならべる位置の決定 : 上顎の前歯は、上唇より2〜3mm見える状態が自然です。かくれても見えすぎてもおかしいものです。また、審美性だけでなく発音にも関係してきます。
以上のように、咬み合わせは垂直的な高さの決定と横ずれのないように水平的な位置を決めなければいけません。特別な装置が必要です。回数は、1〜2回かかります。
| 咬み合わせを決める | 顔貌の改善 | はずした時 |
| 4 | 試適してみる |
入れ歯に使う歯を人工歯と言います。材質としては、樹脂や陶材があります。実際に仕上げるまえに人工歯をならべて、口の中で合わせます。次のような点をチェックします。
1.咬み合わせの状態 : 自然な咬み合わせが出来るか確認します。
2.顔貌の状態 : 若々しさが回復出来ているか確認します。
3.入れ歯の大きさ : 義歯は異物です。我慢できる大きさかどうかを確認します。
4.しゃべり易さ : “さ、し、す、せ、そ”などの発音テストを行い、しゃべり易さを確認します。
5.入れ歯の安定性 : 咬んだりしゃべったりした時の安定を調べます。
この時点での不具合は、何度でも修正できます。患者さんと歯科医師の双方が納得いくまで確認する事が大切です。特に歯科医師は、患者さんの主訴を満足しているかどうかを専門的な立場から判断する必要があります。
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| 歯並びを確認する | 咬み合わせの確認 |
| 5 | 入れ歯を装着する |
いよいよ出来上がった義歯を装着します。患者さんは期待に胸をふくらませ、診療にのぞみます。一方歯科医師は、祈るような気持ちで義歯を試着します。何故なら、未調整の出来上がったばかりの義歯は、ひずみ変形を起こしているからです。適合試験や咬み合わせの修正をしながら、根気強く合わせていきます。未調整の義歯は、次のような特徴を持ちます。
1.義歯の材質は、合成樹脂です。ふつうは基材の粉末と液を混合させて硬いプラスチックに変化させるのですが、この化学変化を起こす過程で、複雑に収縮変化を起こします。使用する材料の量、歯ぐきの形、使用機器などにより微妙な差違を生じ、どのような変化を起こすか予測することは困難です。
2.歯ぐきが咬みしめ力を負担しますが、部位により負担能力に差があります。おおきい咬合力が加わっても大丈夫な粘膜部と、ちょとしたこすれでも痛みが生じる部位があります。痛みを感じやすい部位は、あたりを少なくするように調整しなければいけません。
実際の調整は、直接口腔内で行います。調整回数は個人差がありますが、多い人では10回を越えることもあります。
| 正 面 | 左 側 | 右 側 |
| 6 | 調整 |
綿密な治療計画に基づいて制作しても、出来上がった義歯は変形しています。快適に使用するためには、実際に使用しながら、数回の調整が必要となります。“我慢していれば、そのうち合ってくる”というのは誤りです。出来上がった義歯は、数週間は微細な変形を続けます。あきらめずに、根気よく調整しましょう。
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| 接触関係 | 接触関係 | 接触関係 |
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| 7 | 定期検診をうける |
義歯を使用していると歯ぐきは変化してきます。虫歯や歯周病と同様に、定期検診をうけましょう。より快適に使用できるようになるはずです。
以上のように、制作過程を6段階に分けて説明しました。1過程が1日で済むとしても、1週間1度の治療とすると1ヶ月半かかるわけです。実際には、1つのスッテプを数回繰り返すこともあり、製作期間はもっと長くなることが多いようです。
義歯が成功する秘けつは、各ステップを確実に進めることと、不可抗力とも言える変形を取り除くことです。かかりつけの歯医者さんとよく話し合って、快適な義歯をつくりましょう。
義歯の清掃を怠ると、カンジダ菌が増殖し歯ぐきにも炎症が生じます。義歯の清掃も大切なポイントになります。
| 資料提供:大阪歯科大学細菌学講座 | |||
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| 義歯のプラ−クを 染め出した写真 |
左の義歯に付着した プラ−クを寒天培地で 培養すると、多数の カンジダの集落が 観察される。 |
カンジダの グラム染色写真 |
カンジダのSEM像 |